2024/07/08 10:18
コーヒーに関連した仕事をしてみたいという漠然とした思いは昔からあった。
元々がコーヒー好きだし、大学を卒業後最初に勤めた会社がゼネラルフーズだった。
もっともコーヒーの会社としての選択ではなくて、アメリカの世界企業で働けばいづれはアメリカ本社への転勤、
世界への進出ができるかもという甘い期待からであったが。ゼネラルフーズは、当時世界有数の食品会社で、
様々な食品企業を傘下に抱え、フルーツのプランテーションから食肉まで取り扱うコングロマリットだったが、
日本ではMAXWELなどのインスタントコーヒーとドッグフーズ、ジュースのライセンス(バヤリース)、そして
ハンバーガーショップ一店。 期待して入社したが、わずか半年後、味の素との合弁で日本の会社になってしまった。
1年の労働争議を経て、結婚を機に2年で退職した。
約10年後、缶コーヒーの原価を下げれれば商機ありとの同期入社の友人の情報で、マレーシアの缶コーヒーの
製造メーカーに乗り込んだ。 着いてみると大きな会社だったが、信じられないことに社長が直接会ってくれた。
頼まれて特使で行ったわけでもないのだが、味の素の名前が聞いたか(笑
巨大な工場で、コカ・コーラのマレーシアでのOEM工場でもあった。
マレーシアを選んだのは、缶の材料のスズの産地であり、缶の原価を下げれればというのが唯一の理由であったが、
あながち的外れではなかった。 社長の好意もあり、かなり魅力的な価格を提示してもらったが、帰国後提案は
一言で却下された。 当時の役員たちに、製品を輸入するなどという発想はなかった。
勝手にやったことではあったが、全くの無駄手間に終わった。
それから40年、中国に暮らして、輸出の仕事にも忙しく、コーヒーの発想はなかった。
ただこの間、中国にもどんどんコーヒー文化の波は押し寄せてきた。 マクドナルドやケンタッキーは当然コーヒーを
サービスしたし、スターバックスがどんどん出店を増やし、高い価格にも関わらずいつも満員になった。
コーヒー1杯が30元(600円)もするのに、だ。 客は外人と都市部の新興サラリーマン。
しかし、注文はほとんどがラテ中心で、ブラックのストレートコーヒーやエスプレッソを頼む人、いわゆるコーヒーの
本当のおいしさ、味を追求する人は一握りしかいない。 確かにコーヒーの味には慣れてきて、スタバというアメリカ
文化に浸るようになってきたのだが。 またそこは仕事をする、時間つぶしをする場所でもある。
ノートパソコンを開いて長時間そこで仕事をしている人が多い。
スターバックスは地方に手を広げ、現在4000店舗。 2030年までに9000店の予定という。
何年前からか、スターバックスをまねてラッキンコーヒーというコーヒーチェーンが出てきた。
一時、ニューヨーク市場にも上場したが、会計報告が虚偽であったとして上場廃止になった。
倒産もあやぶられたのだが、新たなスポンサーを見つけ再び勢いを増しつつある。 現在、5000店舗を超え
1万店舗を目指していると聞いた。 経営だけの努力ではなく、背後には成長するコーヒー市場があるのだろうと
思う。 また、ショッピングセンターには様々なコーヒー店が出店するようになった。
いづれもスタバをまねた高級志向の店で、それなりに繁盛している。
数年前から、街角には貢茶を元祖とするタピオカの店が乱立。 同じような店がこれでもかと出店した。
20-25元(400-500円)もするにもかかわらず、若者たちは列をなした。
上記のコーヒーしかり、流行には金を惜しまない一種のファッションだ。
最近はどんどん倒産してきている。 流行は短かかった。
2016年、会社は日本への輸出業で繁盛していたが、任せていた中国女性がメーカーからわいろを取っていたことが
表面化し解雇。 被害は2000万円以上に及んだ。 それだけならよかったが、会社を譲渡しようとまで思っていた
最大の顧客であり息子のような存在だった彼が、解雇したスタッフと恋愛状態にあり、一緒に離れていった。
(のちに彼らは結婚。) 逆恨みで何社もの大事な顧客まで持っていかれて会社は大赤字に転落した。
彼らはこちらの仕入れ先から商品群・見積価格まで全ての情報を持っており、どうにもならなかった。
信頼関係のある10社ぐらいの客先は残って取引を続けてくれてきている。
会社を縮小し、現在も何とか営業を続けている。
昨年(2023年)、何か新しい業務を開拓しなければと思い、いろいろ試行錯誤した。
この中国でコーヒーショップを開くことも少し考えたが、一番のネックは自分がコーヒー豆の良しあしを判断できる
能力がないことだった。 特に歯を抜き、インプラントを入れるごとに味覚が落ちていくのがはっきりと感じられた。
己自身がいろいろな豆をテイスティングし選別できなければ、簡単に騙されてしまい、良いコーヒーをお客さんにも
提供できない。 あきらめた。
昨年一年は、中国企業の日本進出をサポートするプロジェクトを立ち上げようと、いろいろな企画書を作成し、
何名かの中国の経営者たちとも話し合った。 彼らは中国からリモートでアマゾンに出品しある程度の成功を
納めているが、これ以上(楽天や国内での卸)を考えると、どうしても日本に法人を設立して活動していく必要が
でてくる。 結論を言うとうまくいっていない。 彼らが中国流の考え方から抜け出せず、とにかく税金を払いたく
ないからだ。 商売で利益を出せば税金を払っても十分採算が合うと説得しても、 理解されなかった。
まだこの最終結果は出ていないが、この先やっても相手との軋轢が生まれるような気がしている。
2024年2月、旧正月。 何もターゲットもなく帰国した。 4月で75歳。
以前は2年に1回、ビザの更新のために戻っていたが、2020年からコロナのために中国から出ることができず、
昨年の5月、ようやく行き来が自由になって久しぶりに帰国。 終活と思い、姉夫婦と一緒にロサンゼルスの弟を
訪問した。 その間、旅の道ずれに私の過去を話したことから大変面白がられ、まあ、これも終活の一部と思い、
1か月かけて150枚の半生記を書き上げた。 娘二人とも幸せにやっているようだし、さあ、これでもう思い残す
こともないか?
いや、何とか生活はやっていけるが、 毎日がつまらない。 とにかくこのまま朽ち果てたくない。
ただ、何か新しいことに挑戦するにしても先の時間が限られる。
恒例によって、姉の家を訪ねて食事をしているときに、姪がコーヒーの焙煎店を計画していることを聞いた。
まだほんの思い付きのような段階だが、焙煎機を買ってテストしているという。
以前試行錯誤したことが思い出されて、急に心に火が付いた。 もう一度やってみようという気になった。
失敗しても大したことがない。 実現するかは後の話として、まず1年限定で没頭してみよう!
だめならだめで、無理をせずまた別の目標を探せばよい。
まず、コーヒーについて勉強しなおしてみよう。 味覚に自信がないのだから、最低でも知識を身につけよう。
娘に相談して教科書を探していると、娘が、この田口さんて有名な人だよ、と教えてくれた。
早速 “コーヒー、おいしさの方程式” を買ってきて読破した。
豆の種類、産地、焙煎、抽出まで基礎的な知識を得ることができた。
また、田口さんがコーヒーを求めて40か国以上訪問したことや、お弟子さんが90店舗以上の独立店を
オープンしていること、客への接待など社員教育にも注力していることなど、非常に感銘を受けた。
この田口さんの店、カフェ・バッハを訪問してみたいと思った。
近くであればいいと祈るような気持ちで調べてみると、なんと南千住にあった。
私は柏のホテルに滞在しており、ここから30-40分で行ける。 なんという幸運だろう。
私は中国に住んでいるので、できればと思い中国のコーヒーの産地についてネットで調べてみた。
雲南省が中国のコーヒーの95%を産出している事が分かった。 すぐ雲南省出身の友人に電話して聞いて
みたところ、詳しくは知らなかったが、雲南省でも辺鄙なミャンマー近くの山々が主な産地であるらしい。
アラビカ種の比較的良質な豆が取れるらしいことも分かった。
しかも本格的な栽培が始まったのが近年ということで、世界的にはあまり情報が出てきていない。
昨年ベトナムを訪問した時にも、少し興味を持って調べたことがあったが、ベトナムはブラジルに次いで世界
第2位のコーヒーの産出国であるが、主な品種はロブスタ種で、評価が低い。 苦みの強い深入りのコーヒーを
ベトナムの人たちは濃く抽出して、コンデンスミルクをたっぷり入れて楽しんでいる。
翌日、早速南千住に向かった。 ただコーヒーを飲みに行くだけなのだが、コーヒーのメッカに向かうような、
教祖様に会いに行くような何とも言えない高揚感があった。
駅を出て広い線路の歩道橋を超えて15分ぐらい、下町の通りにカフェ・バッハはあった。
店内はカウンターとボックス席が4個ぐらい。 想像していたよりこじんまりとしていた。
運よく(?)雨のせいか、それほど混んでいなかった。
カウンターに座るとドリッパーが10個ぐらい並んでいて、店員さんが抽出中だった。
本を読んで興味を持ってきたというと、親切に入れ方を説明しながら私のコーヒーを入れてくれた。
コーヒーはとてもまろやかでおいしかった。
男性と女性が2名ずつ。 対応が素晴らしかった。 社長の田口さんはもちろんいない。
ただ、コーヒーを飲んで帰るつもりだったが、中国産は置いていないのか聞いてみた。
すると、“コーヒー美味手帳” という本を取り出してきて、田口さんが雲南省で翡翠という品種の栽培に協力
したというページを見せてくれた。 さすが田口さんである。 今は豆の在庫を置いていないという。
あまりよくないのかな、と話を向けてみると、 “いや、かなり評価が高かったですよ” という答が返ってきた。
俄然、雲南省に行ってみようという意欲がわいてきた。
テスト用に、カフェ・バッハのブレンドを2種類、ドリッパー、ペーパー、温度計をいただいて帰宅に就いた。
雲南のコーヒー豆を持参して、必ず再度訪問したい。 仮に相手にされなくても。
2月22日、中国にもどる。